G84タップサイクル:送りFを回転数とピッチに合わせる理由とリジッドタップ
マシニングセンタのG84タップサイクルでF = S × ピッチの関係を必ず守らなければならない理由、フローティングタップとリジッドタップ(M29)の違い、タップ穴の深さとR点の設定を、M8×1.25の3穴の例で説明します。
タップの送りをねじピッチに合わせる理由
ドリルは回転数と送りをある程度自由に変えられます。しかしタップは刃そのものがねじの形なので、1回転でちょうどピッチ分だけ進まなければなりません。この関係がずれると、タップは自分で作ったねじ山をつぶしたり引っ張られたりし、ひどい場合は穴の中で折れます。折れたタップは取り除くのが非常に難しく、部品を丸ごと捨てることになる場合も多くあります。
そのためタップサイクルの送りは「適当な値」ではなく、計算で決まる値です。毎分送り(G94)ではF = S × ピッチ、回転当たり送り(G95)ではF = ピッチです。
| タップの規格 | ピッチ | S500のときのF(G94) | G95のときのF |
|---|---|---|---|
| M6×1.0 | 1.0 | F500 | F1.0 |
| M8×1.25 | 1.25 | F625 | F1.25 |
| M10×1.5 | 1.5 | F750 | F1.5 |
| M12×1.75 | 1.75 | F875 | F1.75 |
G84の1穴の動作
- 初期点からR点まで早送りで下降します。タップはR点ですでに正転(
M03)している必要があります。 - R点から穴底
Zまで指定したFで入ります。 - 穴底で主軸を停止し、逆転に切り替えます。
- 同じFでR点まで抜けます。逆転の状態でねじに沿ってほどけて出てくる動作です。
- 主軸を再び正転に戻し、
G98なら初期点まで上がります。
例の経路
図で、穴ごとに同じ線に沿って下りて上がってくる短い垂直移動がタップの進入と後退です。G83と違って途中で抜けるのこぎり歯の形がありません。タップは一度で穴底まで入るのが基本だからです。
M8×1.25のタップをS500、F625で3つの穴に加工
O3001
T6 M6
G21 G90 G17 G94
G54
S500 M03
G00 X10. Y10. Z30.
G43 H6 Z30.
G99 G84 X10. Y10. Z-15. R5. F625
X30.
G98 X50.
G80
G00 Z100.
M30上図はこのプログラムをCNC Path Analyzerで解析した結果です (早送り 8 区間, 直線切削 6 区間).
フローティングタップとリジッドタップ
昔の機械は主軸の回転とZの送りを完全には同期できませんでした。そのため、タップホルダの中にばねが入っていてタップが前後に少し動けるフローティングタップホルダを使いました。送りが少し速くても遅くても、ばねが差を吸収します。その代わり、穴底で主軸が止まって逆転する間に慣性でタップがさらに入るので、深さのばらつきが大きくなります。
現代のマシニングセンタのほとんどはリジッドタップに対応しています。主軸エンコーダで回転角度を読み、Z軸を正確に合わせて動かすので、固いホルダを使えて深さも正確です。FANUC系では、G84の前のブロックにM29 S_を入れてリジッドモードにする方式が一般的で、機種によってはパラメータでG84そのものをリジッドで動作させることもあります。
| 項目 | フローティングタップ | リジッドタップ |
|---|---|---|
| ホルダ | ばねで軸方向に遊動 | 固定式(コレット・ミーリングチャック) |
| 同期の精度 | ホルダが誤差を吸収 | 制御装置が角度で同期 |
| 深さの精度 | 低い(穴底での慣性) | 高い |
| 指令の例 | G84 ... | M29 S500の後にG84 ... |
| 高速タップ | 難しい | 可能(機械の性能による) |
タップの深さとR点はどう決めるか
タップ先端の数山はテーパに研がれていて、完全なねじ山を作れません。この不完全部の長さはタップの種類によって異なり、止まり穴用タップ(1.5〜2山)と通り穴用タップ(5山前後)では差が大きくなります。有効ねじ深さ12mmが必要で2山のタップなら、1.25 × 2 = 2.5mmを足してZ-14.5程度を指令し、下穴はそれよりさらに深くあけておかないとタップの先端が穴底に当たります。
R点はドリルより少し高く設定するのが一般的です。例のR5.は、タップが加速を終えて一定の同期状態で穴に入れるように余裕を持たせた値です。低すぎると最初の山が不安定にかみ込み、高すぎると空中での移動時間が増えます。
タップサイクルのチェックリスト
- 下穴径:M8×1.25の並目ねじではØ6.8が一般的です。小さいとタップの負荷が急増します。
- Fの計算:Sを変えたならFも一緒に変えたか。回転数だけ上げてFをそのままにするミスが最も多く見られます。
- 回転方向:右ねじは
M03の状態でG84、左ねじはG74(逆タップサイクル)を使います。 - 穴底の余裕:タップ先端のZとドリル穴の底の間に、最低1〜2山以上残っているか。
- 切削油:タップは摩擦の大きい工程なので、切削油の供給の有無(
M08)が寿命に直接影響します。